雪月花 第四十六夜 赤
刃が、止まっていた。
突き抜けたまま、二人を繋ぐように。
はる坊の身体が、ゆき姉を覆っている。
近い。
あまりにも。
吐息が、頬にかかる。
湿りを帯びた、熱。
「……だいじょうぶ」
掠れた声。
それでも、はっきりと。
ゆき姉の胸に、重さが伝わる。
温かい。
生きている体温。
だが――
その奥で、何かが、流れ出している。
刃を伝い、はる坊の内側から溢れたものが、ゆき姉の傷口に触れる。
熱い。
思わず息を呑むほどの、生の温度。
「……はる……坊」
名前を呼ぶと、わずかに、肩が動いた。
視線が、合った。
焦点は、まだ合っている。
だが、揺れている。
呼吸が、一つ、遅れる。
「そんな顔……しないで」
それだけ。
抱く腕が、わずかに震える。
支えきれず、体重が沈んだ。
胸と胸が、触れる。
吐息が、さらに近づく。
「……ゆき姉」
声は、もう軽い。
中身が、削げ落ちていくみたいに。
「……いい匂い」
意味はない。
選んだ言葉でもない。
ただ、そこにあった感覚。
そして――
すべてが、消え落ちる――
その瞬間。
どくん。
ゆき姉の、胸の奥深く――
何かが、脈を打った。
一度だけ。
強く。
世界が、音を失う。
光が、満ちる。
白。
ただ、白。
温度も、匂いも、重さも――
すべてが、その中に、溶けていった。
――第四十六夜・了
