1. 玄関
  2. 朧の間 最新120件
  3. 雪月花
  4. 雪月花 第六十四夜 道

雪月花 第六十四夜 道

いつの間にか、また泣き疲れるように眠って――


そして。


「……さん」


声に、目を覚ます。


ぼんやりとした視界。

雪の上に立つ、人の足。


「え……?」


見上げると、

そこにいたのは、三人。


二人の少年と、一人の少女。


……見知らぬはずなのに、どこか、面影がある。


「ごめんなさい、びっくりさせて……」


少女が、そっと言う。


「私たちの姿……どう見えてる?」


返事が、できない。


「神域の重なる境界は――」


「想いが、形になるの」


「あなたの心が、受け入れてくれたから」


「だから、私たち……」


少年たちが、軽く肩をすくめる。


「ま、完璧ってわけじゃニャいですけどニャ」


「動物のままでいるよりは、役に立てますぜ」


その言葉に、ようやく実感が追いつく。


顔が、崩れた。


「ほら、そういう顔しないの」


少女が、やさしく肩を抱く。


「ところでよ」


猿のような少年が、首を傾げた。


「忌地を癒すったって……どうすりゃいいんだ?」


「ンー……せっかく温泉あるニャし」


猫の少年が、指を立てる。


「足湯とかどうですニャ?」


「幽霊って足ないでしょ」


即座に兎が返す。


「癒しなら、リラクゼーションでしょ普通」


「いや、飯だろ飯」


噛み合わないまま、言い合いが始まる。


その光景を――

ただ、遠くから見ていることしかできなかった。


「……あなたは」


ふいに、兎がこちらを見る。


「どうすればいいと思う?」


「……」


答えられない。


何をしても。

何をしても――

消えないものがある。


だから。


ただ、首を振ることしか、できなかった。


兎は、少しだけ目を伏せる。


「……そっか」


「ごめん」


沈黙。


――想っているだけでは、何も変わらない。


それもまた、事実だった。


ふと。


女将の声が、聞こえた気がした。


あんなふうに、癒すことができたら。


春風のように――

ただ、そこにいるだけで。


「迷ってても仕方ないですニャ」


猫が、ぽつりと呟く。


「昔、ボス猫から聞いた話ですニャが――」


「記憶の残る場所には、願いも残るらしいのですニャ」


「場の力が集まるところニャら」


「その願いの声も、聞こえるはずですニャ」


場が、静まり返る。


「……つまり?」


猿が訊ねる。


「ここニャら――ご神木ですニャ」


「そこで、皆の念を合わせて」


「輪郭を作るのですニャ」


「きっと……形になりますニャ」


誰も、すぐには言葉を返せなかった。


ただ、その意味の重さだけが、場に残る。


やがて。


全員で、ご神木に手を当てる。


「念は、強すぎてもだめですニャ」


「きちんと伝わるように――」


「全体を、思い描くのがコツですニャ」


目を閉じる。


木の内側を流れるような、微かな鼓動。


耳を澄ます。


雪は、音もなく降り続く。


湯けむりの匂い。


そして――


言葉にならない、何か。


どれほど、そうしていたか。


ふと。


湯とは違う、香り。


目を開ける。


――そこにあったのは。


膳いっぱいの、ご馳走だった。

「……え」


ぐう、と。


猿の腹が鳴る。


「あ……」


沈黙。


「……あのさ」


兎の声が、低い。


「すいやせん……腹が減ってたもんで、つい」


猿が、照れ笑いを浮かべる。


「……まあ、戴きものですしニャ」


「腹が減っては何とやらですニャ」


猫は、もう箸を伸ばしている。


その様子を横目に、兎が小さくため息をついた。


「……せっかくだから、雪音さんも一緒に……」


「……いえ、私は――」


そのとき。


雪が、わずかに強くなった気がした。


――第六十四夜・了

2026年3月
第六十三夜 萌芽
次の記事はありません
とちぎ大好き!
第六十三夜 萌芽
次の記事はありません
雪月花
第六十三夜 萌芽
次の記事はありません
プレイリスト
    おみくじ

    本日のあなたの運勢はです!

    良い感じです!おでかけして、おいしいものでもいただいてみませんか?

    本日のラッキーほっこりは サングリア リコ です!

    これまでのおみくじ結果