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雪月花 第七十夜 圧縮

私は一体、何を考えているのか。

目の前で砕け散ったあの面影に、ようやく償える。

怖がってるときじゃない。

考えてるときじゃない。

なのに――


死んでいく。


何もかも。


どうして。


はる坊――


助けて。


……何だろう、これ。


こんな――


これじゃまるで――


あいつそのもの。


……いや、それより悪い。


こんな気分、さっさと――


このままじゃ、もう――


鬼が、嗤った気がした。


最悪な夢だ。


寝不足の朝。

それでも、客間へ朝食を運ぶ。

誰に頼まれたわけでもないのに。

ここにはもう、俺はいないはずなのに。

何やってんだろう。


帰る方法、本気で探さなきゃ……


いよいよ本気でキショい……


自己嫌悪で、頭がおかしくなりそうだ。


膳の前に、幽花と子供。

猿が、さっそく浮かれた調子で料理の説明を始める。

少し離れたところから様子を伺っていると、

おもむろに――

兎が、横に並ぶ。

こちらを見ることもなく、ただ無言で。

でも何だか、それだけで、少し――


……あれ?


「お世話になりました」

帰り際のロビー。

「いや、満足いただけて何よりでさ」

いつも見送りになんか来ないのに、猿がいたりする。

女将は、最後まで目に生気がないまま。

笑顔だけを、かろうじて作っているようだった。

ふと、子供が、テーブルの囲炉裏に上って手を伸ばすのが見えた。

「危ないよ」

そう言って思わず、手を伸ばした瞬間――

炭が、爆ぜた。

「――っ」

火の粉で、手の甲が焼ける。

とっさに幽花が、動く。

「すいません、この子が……」

懐から、白い絹。

火傷の手を、そっと包む。


裂傷もあったのか――

白が、じわりと赤く。


その手つきは、迷いがなかった。


まるで――


最初から、そこにいる人みたいに。


目線が、触れる。

二つの胸の奥で、何かが――


……違う。


そうじゃない。


これは、ただの偶然で。


たまたま、近くにいただけで。


なのに。


どうして――


そんな顔――


――あれ?

違う。

これは、違う。

こんなの――

(何で、あの人が?)

息が、うまく吸えない。

胸が、痛い。

苦しい。

……苦しい。

でも。

これは――

違う。


ふと。


――ああ、わかった。


そういうことか。


最初から、違ったのか。

全部。


今更だった。


嘘だって。

わかってたのに。


何考えてたんだろう、私。


あの頃だって、ずっと……


そうだ。


最初から……


人間なんかじゃ――なかったくせに。


――第七十夜・了

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