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雪月花 第十五夜 迷子(前編)

朝の雪かきを終えた頃。

鈴の音がひとつ――

坂の木の枝から、さらさらと雪が落ちる気配。

見ると、小さな影が立っていた。

「……誰だ?」

声をかけると、影がびくりと肩を揺らす。

男の子だった。

年の頃は、七つか、八つくらいだろうか。

煤けたような上着に、擦り切れたズボン。

……もんぺだ。 歴史の教科書で見たことがある。

「どうした?こんなところで一人で」

男の子は、じっとこちらを見上げている。

泣いてはいない。 だが、目だけが、妙に落ち着きがない。

「親は?」

首を振る。

「名前は?」

少し考えてから、小さな声で答える。

「……守」

それ以上は、何も言わなかった。

困り果てていると、玄関から女将が姿を現した。

守の姿を一目見るなり、表情が、ほんのわずかに和らぐ。

「あらあら……寒かったでしょう」

そう言って、膝を折り、目線を合わせる。

問い詰めるでもなく、理由を聞くでもなく。

ただ、「ここにいていい」という空気だけを、自然に作っていた。

守は、しばらく女将を見つめてから、小さく頷いた。

その様子を見て、不思議と胸が軽くなる。

――ああ、この宿は、こういう時に迷わない。


部屋に通し、子供用の浴衣をひとつ。

「まず、温かくしようね」

それだけ言って、着替えさせる。

守は、言われるままに腕を通した。

ふと、もんぺの鈴が鳴る。

女将は、鈴を外し、浴衣の帯に結び替えた。

「これは、お守りだから――ね」

理由は、それ以上、語られなかった。


それから、湯猫が遊び相手になる。

古いゲーム機の前で、守は少しずつ表情を取り戻していった。

笑う、というほどではない。 だが、肩の力が抜けていくのが分かる。

その間、女将は何度も様子を見に来ていた。

過剰でもなく、放っておくでもなく。

まるで、「そうしてきたことがある」かのような。

――見ていて、少しだけ、胸がざわついた。

夜。

守は早々に眠ってしまった。

布団の中で、何度か寝返りを打ちながら――

鈴の音に呼応するように、小さく呟く。

「……お母ちゃん」

夢の中の言葉だ。

誰も、それを聞き咎める者はいなかった。

その夜は、それ以上、何事も起きなかった。

少なくとも―― そう思っていた。

――第十五夜・了

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