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第十六夜 迷子(中編)

白い。

前よりも、ずっと近い。

逃げる、という感覚が、もう残っていない。

炎が、音もなく迫る。

刃が、振り下ろされる。

その瞬間。

――砕ける音。

金属が、凍りついた空気の中で、ばらばらに弾け飛ぶ。

手応えだけが、残る。

鬼が、嗤う。

焼け焦げる。

息ができない。

そうだ――

見つけられなかったんだ。

白が、すべてを覆った。


目を覚ます。

……寒い。

布団の中なのに、妙に体が冷えている。

それに―― やけに、静かだ。

雪の気配が、ない。

風の音も、しない。

胸の奥に、嫌な重さが残っている。

まるで、あれは――

記憶。


起き上がろうとした、その時。

廊下を、誰かが走る音。

「――いないの!」

枕兎の声だった。

跳ね起きて、廊下に出る。

「女将さんが!それに……守も!」

言葉を聞いた瞬間、頭が一拍遅れる。

「……いない?」 「露天風呂も、バーも、どこにもいないですニャ!」 「いねぇ!裏庭にも、炭置き小屋にも!」

湯猫と酒猿も、すでに館内を動き回っていた。

広い宿だ。

探せば、どこかにいる。

そう思いたかった。

だが。

――気配が、ない。

人のいるはずの空間が、 どこも薄い。

「……外、か?」

それしかない、と。

だが、それを口にした途端、皆の表情がこわばる。


玄関を出る。

外は、まだ静かだ。

雪は、降っていない。

だが――

空気が、冷たい。

不自然なほどに。

「女将さーん!」 「守ー!」

皆で大声で呼びかける。 だが、気配は一向にない。

「そうだ、足跡!」

昨夜は、雪が降っていない。

宿の外周を、ぐるりと一周。

が、どこを探しても――

足跡らしきものは、見つからなかった。

「俺、あっちを探してきます!」

皆に告げると、一人、坂を下りる。


どのくらい、歩いただろう。

どれだけ呼びかけても、一向に返事はない。

喉がいよいよ、枯れてくる。

そのとき。

一陣の風が吹いた。

一瞬で、雪が舞い上がる。

視界が、奪われていく。

まるであの時の、ホワイトアウトのように――

そのときふと、鈴の音。

目を凝らすと向こうに一瞬、白い後ろ姿が映る。

「……女将さん!」

呼びかける。

返事はない。

だが、女将だ。

……見つけた。

間違いない。

守を、抱き寄せるようにして――

そのまま、雪の中に立っている。

「女将さん!」

近づき、思わず肩に触れる。

「――っ!?」

――冷たい。

否。

痛い。

思わず、指を剥がす。

息を呑む。

女将が、ゆっくりと振り返った。

悲し気な―― その目を見た瞬間。

言葉が、喉で止まった。

人じゃない。


――触れてはならないものに、触れてしまった。

そんな感覚だけが、胸に残った。

――第十六夜・了

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