雪月花 第五十九夜 虚
――あれから、どのくらい彷徨ったのか。
今もまだ、はる坊の声が――
最期の息が――
胸を締め付ける。
笄で喉を裂いても、頭を打ち付けても、終わらない。
激痛も、耐えがたい疼きも――
永遠のようだった。
ただずっと、白い地獄だけが、どこまでも続くだけ。
束の間の救いのように、気を失って、気付けば、また歩く。
同じ場所――
ただ、回っている――
ときおり、はる坊の声が――
幻のように、耳に、まとわりつく。
振り払っても、離れない。
私、どうしたら……
――お母さん。
……
そうして、時の固着した世界の中、彷徨い、幾星霜――
どれほどの時が、流れたか。
ぼんやりと、視界の隅。
違和感。
吹雪が――
弱い。
……いや。
弱いことに、気づく。
激痛は、変わらない。
内側から湧き上がる、嫌悪も。
ただ、吹雪だけが――
どこか。
ずっと、何も、見ていなかったのに――
ふと足元に、何かが触れる。
見下ろすと、古びた赤い、文字。
心霊――
忌地……
特……
……
――忌地。
その一語が、頭の中で、繰り返される。
赦されぬ、場所。
同じ……
私と。
もしかしたら――
この世のどこかに、まだ――
静かに、眠れる場所が――
……
やがて、遠い白の向こう。
薄っすらと、文字。
――慰霊、と。
――第五十九夜・了
