落海協奏曲
幾重もの夜を彷徨い歩く。寄せては返す波音に誘われ、ふと降り立った月光の下。
薄紫の光を帯びた、透き通る瞳の群れ。流れに任せる花のように、儚く揺れる。
その目を背けずにおれぬのは、哀れみか甘えの為す業か。
疲れ果てた。とにかくもう眠るしかない。
魂は狂気の猛獣。感覚は永遠の獲物。
螺旋の渦を舞い続ける夢の中では、重力の行き先さえもわからない。
とうに離脱した幽体は、どんな幻想に憑依することを願うのだろう。
命の灯に始まりがあるとすれば、そんな混沌の落海に生ずる一瞬の雷光なのかもしれない。