今日は会社の研修会で温泉地のでかいグランドホテルを貸し切り。
しかし研修会は初日だけ。それ以降はむしろ慰安旅行だ。
それに二日目になると僕の相部屋だった同僚は会社に戻ると言って出ていってしまった。
なのでこのだだっ広い畳敷きの角部屋をなんと独り占め。
こんなことはめったにないのに、勿体ないなぁ。
ただこの部屋、広いのは良いのだけどちょっと造りがわかりづらくて、プライベート空間と共用部の境目が曖昧なのが玉に瑕。
一人だからとハメを外していると変な恰好のところを他の同僚や従業員に見られたりもしかねない。危ない危ない。
さてと。時間も限られてるし、とっととこのホテルを満喫しにいかないと。
そろそろお隣さんにもらった小豆が煮えたので、風呂の準備と一緒にカートに積んで出発だ。
煮豆は途中で同僚たちに会ったら配ってやろう。
部屋を一歩出ると廊下のほとんどがロビーかというくらい広く、そこらじゅうにソファーやテーブルが置かれていてみんな思い思いにくつろいでいる。
ふかふかの絨毯が敷き詰められた高級な廊下を、とりあえず風呂場に向かって歩く。
ここの大浴場は確かにごり湯なのにでっかい滝があるんだよな。
打たせ湯らしいんだけどあんなの誰が使うんだろう?まさか修行僧じゃあるまいし。
しかしこのホテルは広すぎる。エレベーターホールに着くや否や早速迷う。
えーと確かここは10階だから、大浴場は……9階?
なんだすぐ下ならエレベーターを待つまでもない。そこの階段で行ってやろう。
下に降りるとそこはカフェラウンジ。一面の窓からの景色が最高だ。
そこに見知った顔ぶれがくつろいでいたので軽く挨拶。
「風呂ですか?」
「ええ」
「ならここを左に行って……」
あれ?左だっけ?まあいいや。
とりあえず教わった通りにテクテク。
するとレトロなゲーム機が大量に見えてくる。
ゲームコーナーだ。
あいつやっぱり間違えたな。まあいいや、せっかくだからちょっと見ていこう。
浴衣姿のおっさんがぼちぼちうろつく薄暗いフロアには、いかにも温泉らしい雰囲気のあるゲームがたくさん。知ったものから知らないものまで。
そんな中に一つだけ気になるゲームが。
久しぶりに腕が鳴るぜーなんて思った矢先、財布を忘れてきたことに気付く。
やばい、これじゃ何も買えないじゃないか。部屋に戻らないと。
しかし道がわからない。
ゲームコーナーの奥に小型のエレベーターが一基あったのでこれでとりあえず10階に戻ろう。
紫色のネオンに照らされたSFチックなエレベーターに乗り込むと、何やら妙な仕掛け。
上へ参りますと言いながら明らかに箱が下に向かって回転。
そのまま直滑降気味に落ちるかのような感覚のまま、チーン、10階です。
ほほうこれは面白い趣向だ。
下に降りるようなフリをして実は上階に向かっている。
ふむふむ、おそらく仕組みはこうだろう。
僕は一人得意げに物思いにふけるのだった。